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市長の権力行使に疑念 − 生駒市の待機児童解消は

2006年11月12日

論説委員 谷口 重克

 保育園に入園を希望したのに入れない子供たちがいる。実際に入る資格がありながらも何らかの理由で入れない、これが「入所待機児童」。保育問題は重要な社会問題だ。少子高齢化や女性問題、労働市場、福祉などと密接に関わり合い、将来に大きく影響を与えるからだ。<br>   そうした待機児童を解消するために、生駒市の私立保育園が増設を決定し、国庫補助金の内示まで受けたのにかかわらず、山下真市長は、この増設計画を中止、国庫補助金を″返上″するという極めて異例な対応が論議を呼んでいる。<br>   市では、保育園の新設計画を立ち上げ、対応するとしているが、この私立保育園の増設計画よりも1年近くも開設が遅れることは必至で、待機児童解消が先送りされるという、行政として問題に背を向けたことになる。<br>   同市内に保育園は9ヶ所あり、定員は合計で1150人。そのうち定員が200人を超える園は2ヶ所で、現段階で同市での待機児童数は85人にものぼり、入りたくても入れない児童や保護者の懇願は、「山下市政」の国庫補助金返上という″決断″で無残にも消されてしまった。<br>   そもそも山下市長の「増設中止」の理由は、保育園の大規模化に反対する保護者らの意見を取り入れたもの。その理由は、「大規模化になると保育士の目が届かない」「保育士と保護者の関係が希薄になることが心配」といったものだが、それはあくまでも、すでに保育園に入所している保護者としての言い分。<br>   入所できないでいる待機児童の保護者の思いはどうなるのか。保育園に通うことを待ちわびている子どもたちの気持はどう受け止めるのか。弱者を救済し、公平な行政運営を図るのが自治体を預かる理事者としての責務のはず。なのに、入所を待たされる″弱者″の声には耳を傾けず、園に不自由なく通う″強者″の意見に傾注する市政運営はいかがなものか。<br>   山下市長はマニフェストの中の「未来を育むまち」で保育環境の充実をうたい「待機児童ゼロを目指す」としているが、今回の″国庫補助金返上″は、その姿勢に逆行するのではないか、と疑義を投げかける市民は多い。<br>   保育の実状には地域差があるものの、子育てに対する市民の要望に応えるため、中心的役割を担うのは保育所。これに対して施策を総合的に調整するのは、地域の実状を把握する地方自治体である。<br>   児童福祉法では、市町村は保育に欠ける児童について保護者から申し出があった場合、その児童を保育所に保育しなければならない(第24条)と定めている。全国的にみても、保育に欠ける児童は、近年女性の社会進出が増えるに伴って増加し、保育所の増設がそれに追いつかない状態が目立ち始めている。<br>   そうしたことから、国上げての「待機児童0作戦」を推し進めているなかでの、今回の山下市政の判断は正しいのか。単純に一市民の感情論としても「せっかく国からもらえる補助金を返してしまうなんて……。生駒市にとっては損だけ残るのでは」といった素朴な疑問も多く聞かれる。<br>   今回の生駒市の″補助金返上″の対応に、県も「市町村の届け出を国に内申する立場の県としては残念としか申し上げられない。とくに、待機児童の解消は、速やかに対応していただきたい」としている。<br>   市のホームページ上の市長日記で「権力は腐敗する」として「言うまでもなく、首長の権力は、市民のために行使することを目的として―」と記述する山下市長。その権力行使の方向に大いに疑念を感じる。

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