悠言録

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[2007年02月08日]

 暦の上では春とはいえ、立春の日には寒波到来。少し寒気は緩んだが、この時期は油断大敵だ。昭和12年の今ごろも、関西は冷え込んだ▼舞台は京都の南禅寺。将棋盤を挟んで木村八段と対峙(じ)するのは、坂田三吉である。名人を自称し、さまざまな確執の中にいた三吉、このとき68歳。死闘の火ぶたは切られ、18分考えて木村八段が7六歩と角道をあける▼12分経過。三吉の右手がすっと伸びた。9四歩。音もなく突かれたのは端歩であった。激闘の末、三吉は投了したが、奇想天外な奇手を新聞で知った織田作之助は「坂田はやったぞ」と感動し、名品『聴雨』で描いた▼織田作のように文士には将棋好きが多い。幸田露伴、村松梢風、山本有三、里見、尾崎一雄、直木三十五、井伏鱒二、坂口安吾、菊池寛、小島政二郎、永井龍男、山本周五郎、五味康祐、山口瞳、藤沢桓男ら多士済々▼明治の元勲たちはよく碁盤を囲んだらしい。最強は岩倉具視で、弱かったのは木戸孝允。腕はともかく熱中したのが大久保利通とか。囲碁と将棋は似て非なる頭脳的格闘技だ。自戦力での陣取り合戦が中心となる囲碁と、敵駒を捕らえて味方ともなす将棋▼囲碁流か、将棋流か。教育や政治にも妙手はあるだろう。「銀が泣いてる」とは三吉の言葉。時には三吉ばりの奇手もよいが、子供たちを守り切れない教育者、住民を泣かせる首長は投了しかない。(宏)

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