悠言録

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[2007年03月14日]

 奈良旧市街の銭湯が続々と閉じている。入浴は生活に欠かせられないもので、心身をリフレッシュさせる身近な方法だ。それに高齢者たちが世間話に花を咲かせるサロンでもある▼町の銭湯が閉じていくのには訳があって、郊外型のスーパー銭湯の出現が拍車をかけているようだ。スーパーマーケットの進出で、町の商店が軒並み閉店に追い込まれていってから久しいが、銭湯にも大型化の波が押し寄せてきたといえよう▼詩人の田村隆一さんが『スコッチと銭湯』の中で書いておられる一節に「見知らぬ町に行ったら、まず銭湯に入ってみることですよ。つまり、銭湯は町を語るわけ。客の顔つき、マナー、言葉づかい、これが町のキャラクターを肉声で語ってくれる」とある。まさに銭湯を言い得ている▼奈良旧市街の古い銭湯で交わされる世間話で、その土地の歴史を知ることができる。「昔、うちの風呂に阪東妻三郎が来たそうだ」と番台さんが言うと「12歳のころ、戒壇院近くの撮影所をのぞきに行ったよ。炭素棒のアーク灯を明かりにして、銀紙を張った照明板を使っていた。空き地では、ぼろ布に油を染み込ませて火をつけ、猛火のシーンを撮っていた」とKさんが当時の様子を詳しく語った▼古い町には積み重ねられた歴史があって、人の息づかいが聞こえてくる。銭湯は、裸のままの人と人が屈託なく話し合える憩いの場なのである。(し)

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