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文化振興条例に期待 隠れた文化・伝統に光を

2013年01月11日

論説委員 田村耕一

 荒井正吾知事は仕事始め式で「やまとぢから」を強調した。日本や奈良の歴史伝統を県勢の発展に生かすという意味の造語だそうだ。荒井知事は、くらし、健康、経済を県政の重要テーマと位置づける。県民の長寿化を追求する中で、本県の自殺率が全国一低いことの原因究明に取り組んでいるのも、この一環と言えよう。自殺研究そのものが学術的にも乏しい分野に、自治体が関心を示すのは荒井知事ならではの発想と言える。
 先のやまとぢからの具現化の一つとして県は、「文化振興条例」の制定を目指している。これにより、文化振興はもとより、県民の健康長寿に貢献しようとするのがミソだ。
 安倍政権となって国は新たな経済戦略を打ち出したが、成熟化した今の日本で、過去のような経済成長を見込まないほうがよい。15〜18世紀はオランダ、19世紀は英国、20世紀は米国がそれぞれ世界経済をリードしたが、各世紀ごとの経済成長率は0・8〜2・2%だったというのが東大の伊藤元重教授の見解だ。
 その流れで行くと、少子高齢化、産業の空洞化が顕在化している日本の社会状況下で、経済成長を大幅に好転させるのは至難と見なければなるまい。むしろ、文化、歴史、伝統など、地域固有の資源活用により新たな雇用、産業、観光を創造する時代に移行していることを自覚しなければならない。
 幸い本県には、これらの資源が豊富にある。さらに、世に知られていない資源はまだまだあるに違いない。県は文化振興条例を、文化振興という平面的な目的に縛られることなく、その効果として経済、まちおこし、観光、健康など多面的で派生的な効果が期待できる内容に仕立ててほしい。
 3日から国立文楽劇場で、文楽の初春公演がなされている。その演目の一つに「義経千本桜」(すしやの段)がある。これは吉野郡下市町に現存する「弥助ずし」が、その舞台。49代目のご当主によると、同家は約400年前、慶長年間頃から京都の宮中に鮎ずしを納めていた。このような事情を背景に吉野という歴史上の土地柄と平家・源氏の史実、忠義と情を織り交ぜ創作された演目だ。我々は同県民として誇ってよいと思う。同種の文化的資源は県内にもっとあるはずだ。
 ところで、この文楽、大阪市では補助金問題で騒がしい。橋下徹市長は何としても、この補助金を削りたいようだ。昨年、橋下市長は文楽を初めて観て「人形遣いの装束」がおかしいとか、「台本が古すぎる」とか、的外れな発言を繰り返し、関係者の顰蹙(ひんしゅく)をかっていた。およそ、文化・伝統の類は、様式と形式を忠実に継承することに始まる。人形遣いなど一人前になるのに30年も40年もかかる。文楽が関係者の不断の努力により際どく残っているという事実をご存知ないらしい。
 荒井知事は「県の仕事に奈良の伝統、歴史が力を貸してくれる気がする」と語るが、やまとぢからの底上げのため文化振興条例によって、世間に知られることなく隠れた文化・伝統にも光が当たるよう望みたい。「観光」の質的向上のためにも。

  • 教職40年 浅田芳正氏の教育奮闘記「教育は教えないこと!〜考える力を育てる〜」 好評のうちに連載終了 平成28年3月18日刊行
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