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TPPを農業問題に矮小化 国売りたもう勿れ

2013年03月22日

論説委員 田村耕一

 国益とは何なのか。TPP交渉参加の説明において安倍晋三首相は「国益を守る」「国益のため」を連呼する。安倍首相が言う国益とは経済成長、GDP拡大、あるいは輸出産業振興を意味するのか。そうではあるまい。国益とは日本固有の文化、歴史観、健全な経済活動、生活環境を保持しつつ、国民がそれぞれの努力に見合った利益を享受することではないか。
 いったん落ち着きかけたEU経済圏もキプロス問題により再び不穏な気配となってきた。中国は共産党のベールに包まれているものの、どうやら経済は失速気味のようである。アメリカもイラク戦争のつけなどから、膨大な赤字である。日本は少子高齢化、円高、震災などによって経済的には立ち直れていない。このような世界状況下、TPPに参加したところで、根本的な国勢発展とはならない。TPP参加が特効薬のような期待を抱かせるのは欺瞞(ぎまん)である。TPPの中味は、徹底したアメリカの自国利益追求であって、東アジアを含めた太平洋エリアにおけるアメリカルールの押し付けであると総括できる。
 歴史的にアメリカは経済戦略には極めて狡猾(こうかつ)で貪欲である。アメリカが日本の利益増進のために、TPP参加を促すようなお人好しの国ではない。安倍首相が訪米した時、オバマ大統領は自動車関税を持ち出し、対日貿易について従来通りを要求した。
 これはTPPがアメリカ主導であって、自己都合の自由貿易であることを自ら宣言したものである。一方、TPP参加に前のめりな安倍首相からは、農業分野における重要5品目発言を引き出し、TPP問題が農業問題であるかのように矮小(わいしょう)化しようとするアメリカの戦略があった。と同時に、日本は自動車というアメリカへの絶対的な交渉カードを失ってしまった。そもそも、関税は近代国家において極め付きの「国家主権」である。それを野放図に開放し、他国に支配されるとなれば国家ではなくなる。
 19日、米上院財務委員会はマランティス米通商代表部代表代行を招き公聴会を開いた。日本が目指す農産重要5品目の例外扱いに議論が集中した模様である。そして聖域なき自由貿易に例外扱いは認めないとして、日本の交渉姿勢に強い懸念を示し、けん制したという。
 政府はTPP交渉参加表明と同時にその経済効果試算を発表した。参加国間の関税をすべて撤廃した場合、GDPは3兆2000億円上がるが、日本のGDP全体の0・66%に過ぎない。反して農業分野の生産額は3兆円減少してしまう。これが国益というものか。農業を産業と位置づけるアメリカの前で、日本の農業が地域を担い、文化と伝統を紡いできた歴史など異次元の議論となる。安倍首相は美しい棚田を例に出し、農業は国の礎と言う。至言である。だが、その言葉の裏では、先進国中、最低の食料自給率をさらに悪化させ、日本の農業を破壊し、文化、歴史、経済制度をアメリカ的に壊そうとする愚挙が始められようとしている。小欄は敢えて言う、安倍首相よ、国売りたもう勿(なか)れ、と。

  • 教職40年 浅田芳正氏の教育奮闘記「教育は教えないこと!〜考える力を育てる〜」 好評のうちに連載終了 平成28年3月18日刊行
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