論点

トップ論点一覧 > 論点

紀伊半島大水害から5年 心一つに前を向いて歩こう

2016年09月02日

論説委員 黒田高弘

 3年前の5月2日午前5時41分、ひとりの記者が悪性リンパ腫のためこの世を去った、享年33。社会記事や警察記事を主に担当していた彼は、平成23年9月の紀伊半島大水害以降、病に倒れるまで何度となく県南部に足を運んだ。
 その彼が紀伊半島大水害後の24年1月6日付本紙論点で書いた記事をここに紹介したい。見出しは「善意の灯いつまでも 列島復興元年光を取り戻せ」。
 「昨年は東日本大震災など未曽有の大災害に見舞われ、これまで味わったことのない不安と恐怖を列島にたたきつけた。深く傷ついた『心』を一つ一つ丁寧に確かめ合いながら、複雑に絡まった糸をそれぞれが置かれた立場でほどく作業に全力を注いでいる。復興元年の今年、決意新たにした固い気持ちは揺るがないものであろう。
 暗い状況に陥ったときだからこそ、周囲が手を取り合って荒波に立ち向かっていかなければならない。助け合いの精神や前向きな姿勢、物事に対してあきらめない気持ちを持ち続けること。(中略)善意の灯(ともしび)は落ち着いた時点で終わるのではなく、いつまでも途切れさせてはならない。継続してこそ初めて意味を成し、風化しない環境に自然とつながっていく。行動を無理せず現実に背くことなく、できる範囲のサポートが望まれる。今さらではあるが、社会の流れを見ていて、つくづく痛感した。(中略)大切なのは結束の善意を一丸となって灯し続けることだ」
 通夜、告別式には生前交流のあった旧友や記者仲間らが参列、弔電も多数届き、あらためて彼の人柄に触れた。何事にも真剣に取り組む生真面目さもさることながら、心配りのできる人間だった。告別式では、十津川村で取材を受けた人からこんなメッセージが寄せられた。「真摯(しんし)に取材していただいて、こちらの立場に立った記事を書いてくださり、とても信用できる方でした」
 今年3月11日には東日本大震災から5年がたち、日本各地で追悼行事が行われた。5周年追悼式で天皇陛下は「困難の中にいる人々一人一人が取り残されることなく、一日も早く普通の生活を取り戻すことができるよう、これからも国民が心を一つにして寄り添っていくことが大切と思います」とお言葉を述べられた。
 東日本の各県や県南部の被災地の合言葉は「復旧・復興」から次のステージ「地域振興」に代わりつつある。亡くなった記者が論点で書いたように、善意の灯は落ち着いた時点で終わるのではなく、いつまでも途切れさせてはならない。継続してこそ初めて意味を成し、風化しない環境をつくっていく必要がある。
 大和郡山市に住む友人はあす3日、宮城県南三陸町を訪れ、同市の夏の風物詩「金魚すくい大会」を現地で開催する。幾度となく足を運び親睦を深めた同町の「南三陸ふっこう青年会」と協力してのイベントだ。
 悲しみを乗り越え、未来へ―。後ろばかりを振り返っているわけにはいかない。善意の灯を途切れさせることなく心を1つにし、前を向いて歩こう。

  • 凛と咲く〜輝く女性たち
  • バックナンバー購入のご案内
  • 会社情報
  • お問い合わせ

ホームニュース論点悠言録

バックナンバー購入会社情報お問い合わせ

当サイトに掲載の記事・写真・図版などの無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権並びに国際条約により保護されています。

Copyright Nara Nichinichi Newspaper