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大切な思い出を守る

2017年09月08日

記者 梶田智規

 県は現在、五條市内にヘリポートを併設した陸上自衛隊駐屯地の誘致に取り組んでいる。将来発生が予想されている南海トラフ巨大地震などの大規模災害への対応などが目的で、県民のみならず紀伊半島全域の地域住民に安心と安全を与え、防災意識の向上にもつながり、早期実現を望む声が上がっている。
 しかし荒井正吾知事は8月の定例記者会見で、「北朝鮮のミサイルへの対応に予算が取られる可能性が高い」と述べ、同施設の誘致に遅れが出ることを懸念した。それでも荒井知事は「広域防災拠点はどうしても必要」と訴え、早期実現を目指すことを強調。その最たる理由は、6年前に受けた大きな傷だ。
 環境省が選定する「名水百選」に名を連ねる天川村の「洞川湧水群」、曾爾村の「曾爾高原湧水群」、東吉野村の「七滝八壷」をはじめ、県南部には名水目的で観光客が訪れるほど、日本を代表する美しい水が存在する。地域では、その水を守り神として信仰し、村をあげて大切に保全している。
 また日本書紀には「罔象女(みつはのめ)」なる水の神様が登場する。この神様を祭神として祭っているのが、「水神宗社」として知られる東吉野村の「丹生川上神社」。全国に点在する水神を祭る神社の頂点に位置付けられ、現在も水神様の加護を祈願する行事や祭典などが毎年行われている。人類にとって水は生命活動の基盤であり、切っても切り離せない存在。ましてや水神宗社のある奈良は、水への信仰がより深い県であるとも言える。
 平成23年8月30日から9月4日にかけ、その狄絖瓩奈良、和歌山、三重の3県に牙をむいた。72人の命が奪われ、県内でも15人の尊い命が犠牲となった紀伊半島大水害。現在も9人がいまだ行方不明の状態だという。それでも、まだ癒えぬ心の傷を抱えたまま、懸命に復旧復興に向けて前へ進もうとする人たちがいる。
 今月3日、犠牲者の名が刻まれた慰霊碑が建つ大塔運動場で執り行われた慰霊祭では、「ゴーッという音とともに、人に牙を向き、恐ろしいスピードで街をのみこんだ。たくさんの希望と夢を、人それぞれの大切な思い出を奪っていった」と当時の中学生が書いた作文の一節が読み上げられた。狢臉擇併廚そ个鮹イ辰討い辰伸瓩箸いΩ斥佞法遺族らは胸を締め付けられただろう。昨年本紙が取材した、村営復興住宅で一人で生活する家族も家も失った遺族が「自然は怖い」とつぶやいたひとことを思い出した。海、山、川、雨、風など自然は人間に多くの恵みをもたらしてくれるが、時にそれは想像をはるかに超えた力で人間に襲い掛かかってくる。
 慰霊祭で遺族の1人は「同じようなことを繰り返すことのないよう災害に強い地域づくりを」と心から願った。神を敬い、大切にするのは古都・奈良の住民の素晴らしい信仰心。しかし水神様が自然の脅威から守ってくれるわけではない。県や自治体は住民の大切な思い出を守るため、陸上自衛隊駐屯地の誘致も含め、災害に強い地域づくりを何があっても推し進めていかなければならない。

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